2013年7月21日に行われた参議院選挙。
その開票作業の参観について。
まえがき
選挙自体には以前から関心があり、もちろん投票にも[1]行っているが、僕が投票したあの投票用紙が、どこで、どうやって数えられているのかを見たことは無かった。
たまにテレビで開票作業が映ることがあるが、もしかしたら別撮りのニセ映像かもしれない[2]。
少し調べてみると、開票作業を参観できるとがわかり、この機会に参観することにした。
また、参観に関する記事を公開することで、明るい選挙にほんの少しでも貢献できるではないかと考えた。その記事に開票作業の写真があれば、より理解は深まる。テレビが開票作業の映像を流すのなら僕がそれを撮ることもできるだろうと、開票作業をフィルムに記録することにした。
なお、掲載している写真は、プライバシー上の理由で一部を加工している。
投票
投票は、投票日の当日(7月21日)、太陽がカンカン照りの真っ昼間に行った。
午前中の涼しいうちに行けばよかったのだが、前日は飲みに出かけており、目が覚めたのが遅かった。
最終的に投票先を決めたのは7月17日頃。
今回は、いろいろ考えた末、僕が一番に応援する人でもなく、一番に応援する政党でもないところへ投票した。
開票
問い合わせ
これまでに一度も見たことがなかったので、見られるものなら見てみたい、そして撮れるものなら撮りたいという気持ちで、開票作業の参観に行くことに決めた。
どこで開票が行われるのかという初歩的なことことからわからないので、とりあえず石川県選挙管理委員会に電話で問い合わせた[3]。
場所は金沢市の中央市民体育館で、21時15分から開始とのこと。「3階からの参観だと思いますが、詳しいことは金沢市選挙管理委員会に聞いてください」ということだった[4]。
次に、写真撮影に関して金沢市選挙管理委員会に電話で問い合わせた[5]。
回答は、
「写真撮影はOK。だが、手元のアップ[6]はNG。」
という内容であった。
”手元のアップNG”の理由を聞いたところ[7]、
「手元のアップの撮影はしないようにお願いしている。」
と理由にならないことを言う。
「開票速報などのために、報道関係者などが双眼鏡で手元を見るのはOKなのか?」という問に対しては、
「それはOK」
という回答。
「報道関係者も、手元のアップを撮影するのはNGなのか?」問に対しては、
「報道関係者にもお願いしている。」
という回答だった。
いろいろ聞いたところ、
「撮影すること自体は問題ではない[8]が、投票日当日中に氏名や政党名が見える投票用紙を公開することは公職選挙法違反に当たる。」
という回答を得た。これを聞いた上で「当日中に公開しなければ撮影しても問題ありませんね?」という問に対して、またしても
「手元のアップは撮影しないでください。」
とお願いを続け、話は前へ進まない。
逆に考えると、”投票当日中に氏名や政党名が見える投票用紙を公開しなければ法的には問題が無い”という確証を得たわけで、「わかりました。明るい選挙になるよう応援しています。ありがとうございました。」と和やかに電話を切った。
この問い合わせの件をツイートしたところ、@cvcnet氏から次のようなリプライを頂いた。
@jpskenn たぶん,法律上は問題がなく,強く禁止できない。理由などを明確にすると,必ず「抜け道」を用意される。禁止を強行すると「不正がおこなわれるのを隠そうとしている」などと,イチャモンをつけられる。とにかくただ「お願いする」のが,もっとも無難な方法かな。と想像します。
— awane-photo.com (@cvcnet) July 19, 2013
このリプライで、(そういうこともあるのか)と気付かされ、写真は投票者のプライバシーに配慮した上で公開することにした。
実際にに選挙管理委員会の口からこのような話が聞けるとは思わないが、お願いをゴリ押しするのではなく、真摯な態度で合理的な説明をしてくれれば…とも思った。
今回の問い合わせでは、少し失望した。
”明るい選挙”というスローガンを掲げている割には、その実、”暗く不透明な選挙”という言葉に近い対応だったからだ。
参観
20時40分頃、中央市民体育館に到着。
駐車場には、赤く光る誘導棒を持った係員[9]がたくさんいた[10]が、自転車に乗った僕にはまったくかまってくれない。歩道上にいた警察官に参観に来たことを告げると、丁寧に自転車置き場を教えてくれた。
報道関係者、参観人の方は、3階へお上がりください。
という案内が掲示されていた。
床にはビニールシートが敷き詰められていたが、”明るい選挙”とプリントされたスリッパが置いてあり、外履きからこのスリッパに履き替えた。
なんとも細かいところまでお金がかかっている、という印象。
階段を上がり、2階では開いていた扉から開票所の中が見え、ずらっと並んだテーブルに投票箱が置かれていた。投票箱は、僕が来る前に全て運び込まれていた模様。
3階、中央の少し広くなった所に設けられた受付[11]。
3階に入り、選挙管理委員に「参観に来たんですが」と声をかけると、この受付に案内され、住所と氏名を記入した。本人かどうかの確認は無く、誰でも参観できてしまうような雰囲気だった。
報道関係者は、ここで”報道”と書かれた腕章を受け取っていた。
3階にはパッと見たところ40人ほどいたが、そのほとんどは報道関係者で、選挙管理委員が数名、参観者は5名程度だった。
注意書きの内容は、
参観人の皆様へ
・大声などをあげることのないよう静かにご参観ください。
・参観人席を歩き回ることのないよう注意してください。
・携帯電話は場内では絶対に使用しないでください。
・開票所内の関係者と合図などを送ることのないようご協力ください。
※発表された開票状況はこのフロアーの速報掲示板に掲示します。
金沢市選挙管理委員会
である。
写真撮影でそこそこ移動するつもりのため、二番目の注意書きがどの程度の行動を指すのか気になっていた。
何人かの報道関係者はちょこちょこ歩きまわっていたが、特に注意されている様子も無かったことから、他者に迷惑をかけたりしなければ問題無いといった感じだった。
また、これとは別に、報道関係者の内の一人は双眼鏡で開票所の奥の方を見ながら、
「あ〜?あいつ、そこに立ってたら見えねーじゃねーか。邪魔だ邪魔。どけ〜。」
などと、少し離れていてもはっきりと聞き取れる程度の音量で言葉を発していたが、それも注意はされておらず、普通+αの音量で話す分には問題が無いようだった。
とりあえず撮影の準備などをするため、観覧席の右端に腰を下ろし[12]、場内の雰囲気を探りながらカメラを用意。
参観人席は、体育館の手前側と、そこから横へ入って5mくらいの場所のみ。
通路が卓球台(?)で塞がれており、奥の方へは入ることができないようになっていた。
そのため、開票所の奥側にある票を数える機械や、疑問票を仕分ける作業、立会人席の様子などは見ることができず、十分な参観はできなかった。
いろいろと大変なのだろうと思うが、”明るい選挙”スリッパを作ったり、ポスターコンクールを開催するより、すべての作業工程を参観できるようにした方が、選挙は明るくなるのではないかと感じた。
21時頃。
班ごとに分かれ、作業の注意や指示が行われていた。
21時10分頃。
投票箱の鍵を開ける。
この時点では鍵を開けるだけで、また投票箱の蓋は閉じたまま。
鍵の開いた投票箱を前に、開票開始時刻(21時15分)まで、その場で待機。
先程までざわついていた体育館が、シーンと静まり返る。
21時15分、マイクによる開始の合図で、開票作業が始まった。
バタン、バタンと投票箱をひっくり返す音が体育館に響く。
回収された投票箱は通路の壁際に集めらた後、箱の中が見えるように並べられ、蓋も裏向きに置き直されていく。
しばらくすると、立会人が箱に投票用紙が残っていないかを確認するためにやってきた。
手前の女性が肩から提げる鞄が気になった。まさか、あの鞄から投票用紙の束を取り出し、ポトリと投票箱に入れたりしないだろうかと…
投票箱は複数の立会人が確認を行なっている。
そのため、先ほど心配していたようなことは、ほとんど起きないのだろう。
同じ投票箱を複数人が確認することで、この行程での不正は起こりにくいと感じた。
それでも、瓜田李下という言葉の通り、疑念を抱かせるような行動は厳に慎むべきだと強く感じる出来事だった。
開票所内で撮影するテレビ局。
開票作業を行なっている人のすぐ隣で撮影している。選挙管理委員会が言っていた「手元のアップは撮らないように」というお願いはどうなっているのだろうか?お願いされていないのか、それとも、お願いされたが願い下げなのか、はたまた、超広角レンズによる撮影で、手元は小さくしか見えないのだろうか[13]。
それにしても、暑い。
体育館の窓は開けられているが、風がほとんど通らないため、発生した熱が逃げて行かない。手すりに体を寄せてファインダーを覗いているだけで、汗がジワーっと噴き出してくる。汗を拭うハンカチはぐっしょりと濡れてしまっている。
投票箱の回収も終わり、全員が票の仕分けを行なっている。
手前側が比例代表の仕分けで、奥が選挙区の仕分け。
比例代表の仕分け作業。
机に政党名が書かれたテープが貼ってあり、それに合わせて政党ごとに仕分けしている。
机に積み上げられた投票用紙の山。
中央のかごに入れられているのは、疑問票。
選挙区の仕分け作業。
こちらも机に候補者名が書かれたテープが貼ってあり、それに合わせて候補者ごとに仕分けしている。
比例代表はテープが2段貼られているが、選挙区は仕分け対象が少ないため貼られたテープは1段だけ。
すぐ下の机で仕分けられていく票を、観覧席から数えている。
数えていたのは選挙区のみだった。
二人ペアで数えており、一人は双眼鏡で机の上で仕分けられていく票を読み上げ、後ろに控えるもう一人がそれを記録していた。
候補者毎または政党毎に仕分けられた投票用紙と疑問票は、かごを持った担当者が集め、奥の机へ。
開票開始から30-40分経過。
比例代表、選挙区共に、仕分け作業が続いている。
奥の机では、手前の机から集められた疑問票の仕分けが行われている。
開票開始から約1時間経過。
手が付けられていない票が、まだたくさん残っている。
撮れるものは一通り撮ったと感じたので、暑さに耐えかねたこともあって、開票開始から約1時間で参観を終えた。
あとがき
(途中までだが)開票作業を参観して、投票したものがどのように開票されていくのかを知ることができ、そしてそれを撮影して記録することもでき、非常に良い体験だった。
意外だったのは、報道関係者以外の参観者が数名しかいなかったこと。20−30人くらいは見に来ているんじゃないかと思っていたが、なんとも寂しい感じだった。
誰に言えば良いのかよくわからないが、開票までが選挙ということをもっとアピールしてもらいたい。投票したものは当然開票されるわけで、”投票のご案内”
に開票場所と開票開始時刻を掲載しておいてもらいたい[14]。
開票作業に関しては、何点か気になることがあった。
本文中にも書いた、立会人が鞄を肩から提げながら投票箱を確認する行動に加え、ズボンの後ろポケットに何らかの紙[15]を入れている姿など、別に何も悪いことはやっていないのだと思うが、(んっ?)と思わせるところがあった。
また、帰り際に3階から2階へ階段を降りたところで、開票所の中から男性が一人[16]出てきた。隣の部屋に入ろうとドアノブを回すが鍵がかかっていて入れない…という行動をしており、ちょっとわけがわからなくなった。あれは何だったのだろう。
さて、その内容がどうであったかはさておき、問い合わせから実際の参観まで、僕にとってどれもが非常に良い体験で、参観と言うよりは見学に近かったように思う。
開票作業のみならず、それに関係する人々も実に興味深かった。
次回、いつになるかわからないが、もう一度参観に行ってみようと思う。
撮影データ
機材
- Minolta TC-1
- Nikon F100, FM3A
Nikon Ai AF Zoom-Nikkor ED 18-35mm F3.5-4.5D(IF)
Nikon Ai AF Nikkor 50mm F1.4D
Nikon Ai AF Nikkor ED 180mm F2.8D(IF)
Nikon Ai AF Nikkor ED 180mm F2.8D(IF) (+ Nikon Ai TC-14AS) - Fuji NEOPAN 400 PRESTO @EI 1250 4本
撮影
体育館の照明は明るく、EI 1250で撮影することで、F4からF5.6くらいに絞っても、1.4倍のテレコンを装着した180mmのレンズで手振れしない程度のシャッタースピードを稼ぐことができた。
念のため一脚を持参していたが、使用することは無かった。
AF 18-35mmをFM3Aで使用したが、ファインダーの暗さが気になった。普段、日中に使用しているときにはさほど気にならなかったのだが、このような状況では暗さが目立ったようだ。
現像
T-MAX デベロッパー 1+4, 24℃, 8分
現像液注入直後の初期撹拌は5回、その後は1分毎に4回撹拌。
別途行ったテストでは、この現像方法の場合、EI1600よりもEI1250の方がシャドー部の結果が良かった。
なお、初期撹拌以降の撹拌間隔を長く(2分毎または3分毎)してハイライト部の現像され過ぎを防ぐことで、コントラストのきつさを抑えられたかもしれない。
更新情報
2013年7月28日
あとがきに、”投票のご案内”の画像を追加。
2016年7月13日
アフィリエイトリンクを追加。
脚注
- 選挙権を持つようになった当初=大学生だった頃の記憶があやふやなので、ここ何年かは欠かさず投票している、とだけ書いておく。大学のときどうしてたっけかな〜?候補者名はなんとなく覚えているので投票に行ったような気がするけど、投票所の様子が全く思い出せない。 [↑]
- ナンチャッテ [↑]
- 県の選挙管理委員会に電話したことには深い意味はなく、単に県内の選挙に関する全てを統括しているのだろうという考えから。最初から、”投票のご案内”を送ってきた金沢市選挙管理委員会に電話した方がスムーズだったと思う。 [↑]
- 必要な情報を教えてくれたのは良かったが、かなり早口でさっさと電話を切りたいように感じたのは、僕の気のせいかな? [↑]
- 最初に電話に出た担当者はその場で答えることができず、40分ほどして折り返しの電話がかかってきた。 [↑]
- 選挙管理委員会の人は”ズーム”と言っていたが、その意味するところから”アップ”と表記した。 [↑]
- さっきの担当者は即答できず別の担当者に尋ねているようだった。しばらくして、別の担当者が電話を奪うような感じで交代して回答した。 [↑]
- =法律に抵触しない [↑]
- ≠警察官 [↑]
- 投票箱が到着した際に誘導していたと思われるが、僕が到着した時には全て到着済みだったため、ヒマそうにしていた。 [↑]
- と言っても、ただの長机が一つ。 [↑]
- 椅子とかは無いので、地べたに座るだけ。 [↑]
- なお、翌日、7月22日の地元局のニュースではこの開票作業の映像は使われておらず、どのような映像が撮影されていたのかは不明。 [↑]
- 「投票しろ」と案内状を送りつけて投票させておき、「後はこっちでやるから」と、開票に関しては問い合わせするまで教えないというやり方の、どこが”明るい選挙”と言えようか。 [↑]
- たぶん、開票作業に関する資料だと思われる。 [↑]
- 年の頃は中高年。開票作業を仕切っているような雰囲気の人物。 [↑]