お堀通りで

先日、自転車に乗り、兼六園下から広坂へ向けてお堀通りを上っていた。

坂の途中、一人の男性が自転車を停め、歩道脇の植え込みの方を見ている。
視線の先には、小型の犬か猫のような何かがいる。

5mくらいのところまで近づいて、それがタヌキだとわかった。

(兼六園か金沢城にタヌキっているんだっけ?)
(出てきたはいいが、石垣とか登れなくて戻れなくなった?)
(逃げないの?)
(人に慣れている?)
(ん?弱っている?)

僕もそこへ自転車を停めた。
「タヌキですよね?」
さっきの人が聞いてきた。
「ええ、そうだと思います。」
病気なのか、怪我なのか、背中が痛々しい状態になっている。
そして、弱っているようにも見える。

(記録しておかねば)
という気持ちが他の何よりも先に出た。
自転車から降り、リュックサックからカメラを取り出し、その場で静かにしゃがみ込んで1枚撮った。
(広角寄りのレンズだから、この距離では小さくしか写らないな…)
驚かさないようにゆっくりと近づいてみたが、少し近づいたところでタヌキはそろりそろりと後ろへ下がり、こちらを見ていた。
これ以上近づくのは無理と判断し、少し近づいた場所でもう1枚撮った。
(6x7判だし、拡大すればなんとかわかるだろう)

さて、これからどうするか。
さっきの彼の意見を聞きたくてこちらから声をかけた。
「連れて帰るって状態じゃないですね」
「ですね…」
お互いにどうしようもない感でいっぱいになり、しばらく、そのタヌキを見ていた。

(しかしこのままでは…)
(何かいい策は無いものか…)
(ここからなら、市役所まで数分だ。市役所に頼み込んでみるか…)
「市役所に頼んでみますわ」
と声をかけ、市役所に向かった。

市役所で事情を説明したところ、様子を見に行ってくれるということになった。

その後、タヌキがどうなったかは知らない。
保護されたとしても、すでにかなり弱っているようであったため、あまり状態は良くないと思う。

このタヌキに対して僕はベストを尽くせたのだろうか。
結局、市役所に問題を丸投げしただけじゃないだろうか。
他に何かいいやり方があったんじゃないのか。
いろいろと考えさせられている。


タヌキの写真であるが、露出を外すことなくしっかりと写っていた。

なお、タヌキの状態が非常に厳しく、精神的なダメージを受ける可能性があるため、写真は下記のリンク先に置いている。
僕が最初に思ったのは、芥川龍之介”羅生門”の餓鬼である。
この写真を見ると、なんとも言葉が見つからないのである。

所有しているスキャナがブローニーに対応していないため、35mmで取り込める範囲を無理矢理スキャンしている。

閲覧注意
タヌキの写真


2010/09/25 追記
この記事を見た方から、

「もうちょっと注意書きが多くてもいいと思う」

と提案を受け、写真閲覧に関する注意を追加した。

更新情報

2014.4.14
HTMLタグの記述間違いを修正。
2015.8.9
画像のリンク先を変更。