シンポジウム「これからのフィルム上映」 / Symposium, "The Future Of Film Screening"

シンポジウム会場 / Symposium Hall
Carl Zeiss Zeiss Ikon, Planar T* 2/50 ZM, Fuji NATURA 1600

2012年9月17日、カナザワ映画祭のシンポジウム「これからのフィルム上映」に行って来ました。
シンポジウムの内容が、

デジタル化への以降で絶滅寸前のフィルム上映。デジタル上映時代のフィルム上映の意義とあり方を各分野の専門家たちが討論する。

となっており、写真しかやらない僕も気になるところです。

パネリスト

パネリスト 左側 / Panellist, Left-side パネリスト 右側 / Panellist, Right-side
Carl Zeiss Zeiss Ikon, Konica M-HEXANON 90mmF2.8, Fuji NATURA 1600

パネリストは、写真の左から順に、

  • とちぎあきら(東京国立近代美術館フィルムセンター主任研究員・映画室長)
  • 内藤篤(シネマヴェーラ渋谷館主/弁護士)
  • 柳下毅一郎(映画評論家/英米文学翻訳家)
  • 小野寺生哉(かなざわ映画の会代表)

の4名でした。
なお、映画関連の話題に疎いため、残念ながら、どなたも存じ上げません。

会場, 参加者

会場は、金沢都ホテル 地下2階 セミナーホール(いわゆる、旧ロキシー劇場)。

参加者は、パッと見た感じでですが、

  • 女性は全体の1割弱
  • 30-40代くらいの男性が全体の6-7割
  • 残りがその他年代の男性

といったところでした。

気になった話題

パネリストの発言の中で、気になったところをメモしてきました。
細かいところが間違っていたり、発言のニュアンスが異なっているかもしれませんがご容赦下さい。(指摘, 訂正歓迎)

  • 今回は、フィルムの方が画質が良いとか、ノスタルジーでフィルムを語るとかというのはナシ。
    その上で、デジタル化していく中でどうしていくかを討論します。
  • デジタル化することで、どうなる?
    初期導入費用が高いというのは置いておいて…
    映画をDCP(Wikipedia: Digital Cinema Package)で配布することにより、配布コストの低減, 時間の短縮, 違法コピーされにくいなどの特徴があり、メジャーな新作に関してはデジタル化によるメリットが大きい。

    しかし、旧作、中でもマイナーな作品やピンク映画などはDCP化されず、上映される機会が無くなってしまう。
    例えば、VHSとしてリリースされていた作品が、LD, DVD, BDではリリースされていないということが山ほどある。
    それと同じことがデジタル化でも起こる。

    このデジタル化の流れは止められない。
    そういうところで、何ができるか?

  • 黒澤や小津なら大丈夫なんだろ?
    黒澤なら大丈夫かもしれないが、小津についてはDCP化されないものも多い。
    黒澤, 小津以外の、さらにマイナーな作品だと、もう絶望的。
  • カラーフィルムの退色が始まっている(小津作品も含む)
  • フィルムとそれをビデオ化(VHS, DVDなど)したものの間には大きな溝があり、ビデオ化したものは別の何かというレベル。
  • フィルムセンターのこと
    • フィルムセンターでは、現在65000本を収蔵。
      ここ数年は年間2000-3000本の割合で収蔵フィルムが増えている。
      昨年は、購入したものが250本、寄贈されたものが1400本程度。
    • 基本的には、作品の内容で選別せず、フィルムで作られたものは全て集めてアーカイブするというスタンスで運営している。
      収容可能なキャパシティの問題で貴重な作品が優先され気味であるが、基本は全て集める。
    • 元のフィルム保管者から、著作権などの権利はそのままに、所有権だけ譲ってもらって、フィルムを保管している。
      フィルムセンター内では自由に上映することが許されているが、フィルムセンター外(例えば、このカナザワ映画祭とか)における上映に関しては別の契約が必要なため、料金を支払ったり許可を得るなどの手続きが発生する。
      なお、著作権が切れているものについてはこの限りではない。
    • 旧作の保管と、それらの作品を上映できる仕組みを、どうやって作り上げ、運用していくかが課題。
  • 日本では、映画はアーカイブされていない。
    法律的には、アーカイブすると規定されているが、フィルムがまだ高かった時代に免除されていたことをずっと引きずっており、今でも免除されたままである。
  • 映画会社は営利企業
    だから…
    金にならないことはしない。
    旧作はないがしろに。
    年に1回しか上映しないようなものは、管理が適当になりがち。

    旧作の上映については、権利関連のクリアが面倒である。

    アーカイブ用ではなく、(劣悪な環境でも)単にフィルムを倉庫に置いているだけで、倉庫代がかかってしまう。
    そのため、大手の映画会社は、数年内にそれらフィルムを手放してしまうのではないかと言われている。

  • フィルム映画は、始まって100年たつが、昔から無くなる危機とともに進んできた。
    1. 燃えやすいフィルム
      危険であったため、フィルムの所有者(会社, 人)が、自身で廃棄していた。
      残っている作品は、当時の10%程度。
    2. 安全なフィルム
      燃えにくいものに変わったが、保存性が悪く、脆いフィルムであったため、ダメージが大きい。
      また、カラーフィルムは退色の問題もある。
    3. 現在のフィルム
      現在の映画の制作は、多数の会社や団体が出資する製作委員会方式(Wikipedia: 製作委員会方式)が採られることが多い。
      映画を上映する際は上映に関する権利をクリアする必要があるが、この方法によって制作された映画の場合、どの会社(または団体)が権利を保有しているのか、会社が倒産などしている場合に権利はどうなっているのか、誰が原板を保管しているかなど、非常に複雑な事情が発生してしまい上映できないということがある。
      また、この複雑な事情を敬遠し、その映画の上映を避けるということもある。
      そのため、上映される機会が減り、適切に保管されているか疑わしい。
    4. デジタル化
      今ココ。
      デジタル化が進んだことで、メーカー, サービス, 製作者など、フィルムに関連するいろいろなところが苦しくなっている。

    1, 2はハード的な危機、3, 4はソフト的な危機。

  • フィルム映画を見ることができる機会が少なくなっている
    • 素材(フィルム)の保管状態
    • フィルム映画を上映する場所の減少
    • 上映する機械の減少
    • 契約の複雑化
  • フィルムという物自体へのフェティシズムは確実に存在する
    触感や、そこに存在するという感覚から来る何か。
    しかし、フィルム(=フェティシズム)は、金には勝てない。
    ニッチなもの(フィルム映画, フェティシズム, ○○さんが作った大根など)は、大量生産されたものやデジタルなものに大して、金銭的にはかなわない。

    フィルムの全てをデジタルに置き換えることはできない。
    だから、(映画の)全てがデジタルに置き換わってしまうものではないだろう。

    うまいことやって若いヤツを洗脳できないかな?
    フィルム映画を見て、体験して、発見し、得られるものをうまく伝えて…

  • 質疑応答
    • フィルムの復元って?
      絵画などでは、それ自体を修復して元の見た目に戻すことを復元と言うが、フィルムはそうではない。
      フィルムは、フィルム自体を修復するのではなく、複製(デュープ)することによって、記録されたコンテンツを取り戻すことを復元という。
    • 上映することでフィルムが傷みませんか?
      上映(映写)によって受けるダメージ(フィルム面への傷(スクラッチ), パーフォレーションの乱れ, フィルムが切れるなど)よりも、フィルム自体の化学的なダメージ(ベース面の変質, 銀粒子の変質, カラーカプラーの退色, ビネガーシンドロームなど)の方が、影響が大きい。
      ずっと缶に入れっぱなしで置いておくよりも、適度に上映されて巻き返されることで、溜まっていたガスが抜けたり、フィルムにかかっていた圧力が抜けたりして、フィルムに良い。
    • 富士フイルムの発表に関してどう思われますか?
      今の、フィルムで撮ってフィルムで上映するという映画の作り方は変わっていくだろう。
      でも、そんなに切羽詰まったものではないです。

まとめ

フィルム映画をこれからも見続けられるようにするためには、まだたくさんのハードルが残っていることを実感しました。
旧作の保管(保存)や契約といった作品自体が消滅しかねない問題や、上映装置や劇場がなくなっていく事による視聴環境の側の問題など、そのいずれもが問題の規模として非常に大きく、個人的には、それらの問題は解決できないのではないかと感じました。

それでも、フェティシズムなのかノスタルジーなのか、はたまたそのクオリティに依るのか、「フィルムの全てをデジタルに置き換えることはできない。」という一言に重さを感じました。

# たぶん、それが好きなヤツは、何があってもそれが好きなんだ、と。
# 手間がかかろうが、安くできようが、似て異なるものは好きにならないんだ、と。
# 映画でも写真でも何でも、そういう気持ちなんじゃないかなぁと思います。

写真分野について考えると…
写真に関してもデジタル化は進行する一方ですが、2012年9月現在、フィルムに関しては銘柄の減少や価格の上昇など、供給に不安はあるものの、ニコン(F6, FM10)をはじめ、コシナ(Zeiss Ikon, Voigtlander Bessa)や富士フイルム(GF670, KLASSE), ライカ(M7, MPアラカルト?)などがまだカメラを販売しています[1]
そして、カメラのキタムラなどで現像やプリントのサービスも利用可能です[2]

全体のボリュームが減少し状況は悪い方向に進んでいますが、まだほとんどのことができる今のうちに、好きなことを好きなだけやっておこうと思います。

おまけ

金沢市長 山野さん / Mr. Yamano, The Mayor of Kanazawa
Carl Zeiss Zeiss Ikon, Planar T* 2/50 ZM, Fuji NATURA 1600

シンポジウムの終わりに、金沢市長の山野さんからご挨拶がありました。
「なんか招待が来たけど、ピンク映画?何これ?と思っていたら、金沢市が助成していました(笑)」と会場を和ませ、最後は応援メッセージで締めくくっていました。

更新情報

2012/10/04
撮影データの誤記修正
citeタグの使用誤りを削除
おまけを追加
更新情報を追加
2013/3/17
引用元を追記。
2013/8/6
質疑応答の誤字訂正: 正:化学的 誤:科学的
2016/3/20
引用部分、HTMLのciteタグの表記を変更。

脚注

  1. 在庫だけかもしれないけれど。 []
  2. 利用できなくなったサービスもありますが。 []

著者

西尾 健(にしお たけし)
石川県金沢市在住の素人フォトグラファー。
ダメ人間で写真が好き。フィルムの魅力に引き込まれ、フィルムで撮り続ける日々。
このWebサイトでは、主に自分用のメモと記録を、写真と文を交えて記事にしています。

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